紅茶百科

紅茶見聞録

Black tea chronicles

映画で紅茶見聞録@ザルツブルグとウイーン

グルメの聖地でもある、台北最終日の前夜は、家族に合流し、北京ダックに舌鼓。

一九七〇年代は、当時のティーンエイジャーにとってその時代の情景と結びつくように、様々なジャンルの音楽が流行しそして聞かれていた。ブームが終わろうとしている頃のグループサウンズやアイドルのヒット曲、そしてラジオの深夜放送から入ってくるロックやポピュラーの洋楽の中から、私の場合は段々と敢えてとっつきにくいジャズにもこだわって聴くようになっていった。心の中で、「俺は違うんだ。」という感じで少し背伸びしてカッコをつけていた。高校から大学にかけて通学ルートでもあった渋谷駅、その井の頭線のガードからほど近い裏小路の坂道にJAZZ喫茶「オスカー」があった。真っ暗な中にかすかに赤や青の蛍光色に明かりが灯るサイケデリックな趣の店内で、大型スピーカーから曲名も知らないジャズ演奏が爆音で流れていた。その当時は、そもそもJAZZのインプロビゼーションすなわちアドリブ演奏が、コード進行や決められたモードというルールに基づいて、曲ごとの決まった長さのテーマ分の小節数を繰り返し、即興で演奏されることなど、全くわかっていなかった。
しかしそんなジャズの曲の中で一度聴いたら忘れない、耳に焼き付くようなソプラノサックス演奏の曲があった。ややノスタルジックなメロディーに心惹かれるその不思議な曲は、映画『サウンドオブミュージック』の中の有名な一曲「マイフェイバリットシングスMy Favorite Things」のジョンコルトレーンによる演奏であった。原曲のメロディーから始めて徐々にグルーブ感ある音色を奏でながら、やがて全く独自の世界に聴衆を巻き込んでゆく。そしてワンコーラス、ツーコーラスとモード奏法によるアドリブ演奏が進み、怒涛の如く激しさを増してゆく。
1940年代後半から50年代初頭、ビ・バップの時代の稀有な天才としてチャーリーパーカー(アルトサックス)が、彗星のごとく現れた。幾多の自作曲も含めた名曲を、コード進行に基づいた超絶な高速アドリブで料理し、軽々と滑らかに演奏してしまう驚異的な才能のパーカー。
それに続き、50年代終わりから60年代に入り登場した、新たなジャズ演奏法であるモード奏法の先駆けとしてのモダンジャズのもう一人の天才が、ジョンコルトレーン(テナー&ソプラノサックス)である。メジャー(長調)やマイナー(短調)などのスケール(音階)から曲調を決めるモード(音列)を選び出し、より自由なインプロビゼーションに展開してゆく、革新的なモード奏法を生み出した。
のちに自分でもサックスを手に入れ、自己流の趣味ながら何十年かけて練習し続けても、容易に真似などできない天才たちは、今現在の自分のよりおよそ三十歳も若い年齢で、とっくの昔に他界されてしまっている。音楽における天才は、生まれついてのものであろうことは、クラシックの世界も含めて首肯せざるを得ない現実である。
しかしながら、自分としては腕前抜きに、巨人たちと同じ楽器をもって、音を十分に楽しんでいるので、下手の横好きも大いに結構と自ら趣味として続けてきている。
つい力が入って、脱線が長くなってしまったが、今回は不思議な魅力あるメロディーのワルツ曲「マイフェイバリットシングス」にちなんで、1964年の映画『サウンドオブミュージック』の舞台となったオーストリアのザルツブルグを訪ねてみよう。
だいぶ以前に、オーストリア・ウィーンからザルツブルグに向かう鉄道で、途中駅Linzから程近い現地では有名なリンゴ果汁メーカーを訪問したのだが、仕事での出張なので有名な歴史的観光地ザルツブルグまではスケジュール上行くことは叶わず、頭の片隅に、いずれ一度は行ってみたいものだと思っていた。その頃、かの有名な天才音楽家アマデウス・モーツァルト生誕の地であり中世の街並みをそのまま残すザルツブルグ旧市街は、世界文化遺産に登録されてもいる。
2015年は、映画『サウンドオブミュージック』誕生から50周年の年であった。ザルツブルグの市内じゅうは、世界中の観光客で賑わっていた。この街の人気の由来は、今では、モーツァルトよりなにをおいても、映画『サウンドオブミュージック』である。

ザルツブルグ旧市街ゲトライゼ通り、そしてアルプスに程近い絶景の山々と湖。
ザルツブルグ旧市街ゲトライゼ通り、そしてアルプスに程近い絶景の山々と湖。
ザルツブルグ旧市街ゲトライゼ通り、そしてアルプスに程近い絶景の山々と湖。

さて、なぜ今回の紅茶見聞録に、ここザルツブルグを選んだのだろう?それを、これからお話ししてゆこう。
DOREMI すなわち、ドレミの歌に隠された謎が今回、解き明かされた。少し、大げさだが(笑)。
まずは、ジュリーアンドリュース主演のドレミの歌を聞いてみよう。
日本では、全く異なる日本語の歌詞で大変有名なミュージカル曲として普及してしまったが、オリジナルの歌では、TEA が登場する歌詞が含まれていることを発見。
メロディーはもちろん変わりないが、歌詞は、始まりから、「ドは、ドーナツのド」ではない。そして、最後のシまで、すべて違う。英語版を歌ってみようとするが、日本人の私にはなかなか英語の歌詞が頭に入らず、結構難しい。
D0 / Doe a deer a female deer
ドは鹿、メス鹿のこと
Re/Ray a drop of golden sun
レは光線、黄金の太陽の光
Mi/Me a name I call myself
ミはミー、自分を呼ぶときの名前
Fa/Far a long long way to run
ファは遠い、長い長い走る道のり
So/Sew a needle pulling thread
ソはソウ、針で糸を引いて縫う
La/La a note to follow So
ラは、ソに続く音
そして次にいよいよTEAが登場する。
Ti/Tea a drink with GERMAN BREAD(jam and bread)
ティはティー ア・ドリンク・ウィズジャーマンブレッド
何度聞いてもジャーマンと聞こえ、「ドイツのパン」を思い起こさせるように紛らわしく、歌っているよう。変な歌詞だと思っていたが、正しくは、ア・ドリンク・ウィズ・ジャム・アンド・ブレッドだったのだ。紅茶には、やはりジャムとパン・・・ならわかる。
That will bring us back to Do
それからドに戻るのよ。
時は、第2次大戦前、ナチスドイツがオーストリアを併合して、支配下にせんとする時代背景である。十七歳の長女を筆頭に、女の子五人、男の子二人の子供たちを抱え、先妻をなくし男一人で子育て中のトラップ大佐は、祖国オーストリアへの愛国心が誇りである。ザルツブルグの湖畔の邸宅で暮らすが、家庭教師は中々居つかない。新たな家庭教師として、修道女見習い中のマリア(ジュリーアンドリュース)が着任する。そして、マリアは、子供たちにドレミの歌を手はじめに音楽の楽しさを教える。やがて、トラップ大佐とマリアは結ばれ結婚するが、周囲にはナチスドイツの影が強まってきている。家族は、祖国の名誉にかけ、ザルツブルグの祝祭劇場で開催される合唱コンクールに参加することになる。大佐家族の合唱団が歌うドレミの歌とお別れの歌などの出来栄えは群を抜いていたものの、優勝者の表彰式後にはトラップ大佐を捕らえて、軍役に連れ出そうとナチス一派の将校と軍属が目を光らせ、観客席で待ち構えている。ドレミの歌中のジャーマンブレッドに聞こえる歌詞は、ドイツを持ち上げておいて、一連のナチに洗脳された集団を油断させようとしたのではないか?とこの映画が世に出て50年以上もたった今、「そうだったか!」と気がついたのだった。
私自身の英語耳が未熟なだけかもしれないけれどが、面白い推理ではないだろうか?
でも、間違いなく言えることは、ドレミの歌の歌詞に登場するほど、子供にもわかる飲み物がTEAである。ザルツブルグでは、歌の中にあらためて紅茶を発見した。

ザルツブルグ旧市街ゲトライゼ通り、そしてアルプスに程近い絶景の山々と湖。
有名なザルツブルグ音楽祭が行われる開場前の祝祭劇場には、セレブが集まってくる。
劇場の一つで、岩壁をくり抜いて三層の観客席にしたフェルゼンライトシューレ(馬術学校の岩壁という意味)。
ザルツブルグ旧市街ゲトライゼ通り、そしてアルプスに程近い絶景の山々と湖。
映画の最後のクライマックスに近づき、合唱コンテストが行われた、旧コンサートホール。
旅行者で賑わっているモーツァルト広場
旅行者で賑わっているモーツァルト広場

ウイーンでエンジョイ! スイーツ&ティー
モーツァルトやカラヤンの生誕の地ザルツブルグに加え、音楽の都ウイーンも言わずと知れた数々の大音楽家を輩出しているが、そちらの方面のお話は、数多の詳しい方々に解説をお願いするとして、紅茶見聞録的にウイーン探訪をしてみたい。
♪ タター、タァー、 タター、タァー・・・
これは、だいぶ古い1949年制作の白黒作品の大傑作といわれるイギリス映画『第三の男』の不滅のテーマ曲メロディー。聞けば殆どの人が「ああこの曲ね」とうなずくことでしょう。かつて何度か、テレビで放映した折に見た記憶があるが、ストーリーがよくわからない、ただ暗い雰囲気の洋画という印象だけが残っている。イギリスの作家グレアム・グリーンの同名小説を映画にしたそうなので、こちらを読んだ方が、筋書きが良く理解できることだろう。ウイーンがこの映画の舞台であるということなので、アマゾン何やらで、あらためてじっくりと見てみた。(無料だった。)この映画の中身には、深入りせず、一場面だけ、取り出してみよう。映画の中の「第三の男(?)」ハリー(オーソン・ウェルズ)の恋人役を演じた女優アンナ(アリダ・ヴァリ)が、出演を終えた楽屋で主役のアメリカ人の男マーチンス(ジョゼフ・コットン)に、紅茶を薦めて淹れ、もう一杯いかが?と聞くシーンがあった。
Would you like some tea?(お茶でもいかが?)
・・・
Some more tea?(もう一杯いかが?)
Well, ok.(もう結構)
といった他愛もないやり取りだが。
この主役の男が映画の中で投宿していたのが、ウイーン国立オペラ座横にある有名なホテルザッハーであった。ザッハートルテを味わいについでに、入ったところ、クラシックで絢爛豪華なロビーからからほど近い壁には、ブルース・ウイリス、ニコラス・ケイジ、などハリウッド映画スター達が訪れた記念の写真が壁一面にあった。有名映画スターがこぞって訪れているのは、映画『第三の男』に登場するホテルであることとも関係があるのだろうか?ふと思った次第。

ホテルザッハーのクラシックな雰囲気のロビー
ホテルザッハーのクラシックな雰囲気のロビー
ホテルザッハーの人気スイーツ有名なザッハートルテとアプフェル・シュトウルーデル。スイーツに合わせての定番の飲み物は生クリームを浮かべたウインナーコーヒーだが、ザッハーブレンドの紅茶も人気だそうで。
ホテルザッハーの人気スイーツ有名なザッハートルテとアプフェル・シュトウルーデル。
スイーツに合わせての定番の飲み物は生クリームを浮かべたウインナーコーヒーだが、ザッハーブレンドの紅茶も人気だそうで。
高級食品スーパー・ユリウスマインル内にある路面のカフェ。
高級食品スーパー・ユリウスマインル内にある路面のカフェ。
どこのカフェにもTEEメニューがあり、楽しめる。高級スーパーには品ぞろえ豊富な紅茶売り場があり、人気の老舗紅茶専門店TEEHAUSも、賑やかな通りに店を構える。
どこのカフェにもTEEメニューがあり、楽しめる。高級スーパーには品ぞろえ豊富な紅茶売り場があり、人気の老舗紅茶専門店TEEHAUSも、賑やかな通りに店を構える。
どこのカフェにもTEEメニューがあり、楽しめる。高級スーパーには品ぞろえ豊富な紅茶売り場があり、人気の老舗紅茶専門店TEEHAUSも、賑やかな通りに店を構える。

終わりに
オーストリアが舞台の二大傑作映画に、ティーはしっかりと登場している。
実際、ウイーンやザルツブルグに行ってみれば、ホテルや人気のカフェで、人々はおいしい伝統のスイーツによく合う紅茶を楽しんでいる。
オーストリアの紅茶見聞録をきっかけに、音楽の都、オペラ、歴史的な世界文化遺産の数々、そしてグルメやオーストリアアルプス巡りなど、ヴァーチャルでもチャンスがあればリアルにも体験されてはいかがでしょう。
次回は、いよいよ待望の紅茶生産国ケニアへと飛ぶことにしよう。

田中 哲

紅茶見聞録 トップページへ

紅茶百科

紅茶レシピ

Recipe